著者の漆原直行氏は編集者、ライターである。

昨今のビジネス書市場を支える稼ぎ頭であり、売れ筋といえば、「自己啓発」「成功法則」「ライフハック」の3系統といわれる。

漆原氏は、ゼロ年代のビジネス書界隈の盛り上がりを生んだ理由として、大きく次の3つの要素を挙げている。

①とにもかくにも、不況である-出版業界の薄利多売路線を支える役を担った。
②版元も作家もマーケティングや営業に熱心で、売るための労を惜しまない。
③ビジネス書関連ビジネスが盛んになり、ビジネス書作家になりたい人が増えた。

ビジネスコンサルタントやアナリスト、評論家といった肩書きを持つ著者が中心なのも特徴だ。

また漆原氏は、知識や教養を深め、実務に役立てたり、目標を達成したりするために必要なツールのひとつとしてビジネス書を活用するような意識でいるなら違和感ないが、ビジネス書を読む行為そのものが目的化してしまっているケースが少なくないという点を指摘している。
こういう人は実際に多いのだろう。

意識を高く、目線を上に-そんな煽りを見聞きした時こそ、まずは自分の足もとを冷静に見るというのは納得である。

余計なことを考えずに最適解に辿り着くこと、効率を最大化することがライフハックの神髄、といわれれば、その通りなのだろうが、仕事をしながら、あれこれ悩んだり、遠回りしたり、試行錯誤することで自分なりのアプローチ術なり対処法なりを見いだしていく経験を積み重ねていくことでしか、自分なりの仕事術なんて身につかないのではないかなと思ってしまう漆原氏。

このあたりは効率化はもちろん必要で、かつ経験から学ぶことや気づくこともあり、うまく両方を組み合わせていけばいいのではないだろうか。

ビジネス書に感化される前に、会社や取引先など自分の身近で関わる人たちから学べることがたくさんあるはずというのはわかる。
また、何気ない日常生活のなかにも、人として気を配らなければいけない要点に気づかされる機会は数多く存在しているのもそうだと思う。

漆原氏は最後に「ビジネス書を使いこなすのではなく、ビジネス書に使われるような読み方から、そろそろ卒業しましょう。」と警鐘を鳴らしている。

何でも妄信的になるのではなく、良い部分は取り入れるくらいでいい。


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ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない (マイナビ新書)