著者の田中慎弥氏は純文学を書く芥川賞作家である。
小説家の田中氏が、世の中で起こっている出来事を眺めて強く感じるのは、仕事、学業、人間関係、因習、しがらみなどによって、いまを生きる人の多くは、「奴隷」になってしまっているのではないかということである。
確かに流されていたり、もはや気づいてないのであればこわいことだ。
田中氏は、奴隷のままでいたくなければ、少し自分自身の頭を使って考えてみるのはどうかと提案している。
自分の頭で考えるというシンプルにして味わい深い営みが、奴隷状態から抜け出すポイントと考えを示している。
思考停止にならないように時間を作って自分の頭で考えるクセをつけるのは大事なことだろう。
少し逃げてひと息つくことも悪くない。
パソコン、携帯電話、スマートフォンなどデジタル端末を扱わず、鉛筆と原稿用紙、ファックスつき固定電話、辞書があれば充分というアナログ人間の田中氏にとって、インターネットで常にどこかでだれかとつながっていようとする人の振る舞い、心理が不思議に見えることもままあるそうで、頼りきり過ぎていて依存している現代人の多くが見直す必要がありそうだ。
また、仕事や世間の奴隷にならず、くだらない流行から逃れ、そして孤独に耐えるためには、読書を勧めている。
目に見える効率とは無縁である代わりに、読書は可能性をもたらしてくれるという。
豊かになり、いままでとらわれ、硬直してしまいそうな、考えや価値観を揺さぶり、先を切り拓くための手がかりを授けてくれるそうだ。
読書は時間のかかる行為ではあるものの、こうした効能は大きいと思うし、自分を見つめ直すきっかけになるはずである。
最後に本書を読んで、デジタル機器を遮断したうえで独りの時間を設けることの大切さを感じた。
そのほうが精神衛生的に良さそうだ。
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